染の小道2025開催レポ 「道のギャラリー」ののれんを巡る


妙正寺川沿いの飲食店が並ぶエリアにはのれんがたくさん掛かりました

落合・中井の“染色を軸に街の活性化を目指す”プロジェクト「染の小道」が2月21〜23日に行われました。今回も西武新宿線と都営大江戸線の中井駅の間を流れる妙正寺川に反物が架かり、昭和30年代まで川で反物を洗っていた風景を偲ばせ、この日のために染められたのれんが街の商店97店を彩りました。

のれん展示は「道のギャラリー」と呼ばれており、街がまるごとギャラリーになるようなイメージ。街歩きをしながら、さまざまなお店の軒先に飾られたのれんを楽しむことができます。


さまざまな技法ののれんが店を飾り、あちこち見て歩くのが楽しいです


期間中は店先で飲食や食品、小物などさまざまな出店も多数ありました

友禅、更紗、紅型、藍染などさまざまな染めが楽しめます。作家は全員ボランティアでの参加。のれんを掛けるエリアは実行委員会が決めます。誰がどこにのれんを飾るかは、開催の半年前くらいに決まります。「この店に飾るからこそ、こののれん」という、作家のサービス精神がさまざまな店の軒先で楽しめます。


田子いずみさんの型染のれん「三匹のこぶた」

とんかつ高橋に掛かったのれんは、可愛い3匹の子豚。なんともシュール!一生懸命家を作って身を守った子豚さんを、私たち、美味しくいただいています。ところが、作家の田子いずみさんの作品説明を読むと「この有名なお話は、時間や手間をかけてコツコツ努力することの大切さを伝えていると言われます。『美味しいとんかつ』を調理されることと共通していると思いました」――なるほど〜。深い。美味しそう!と思ってしまって失礼しました!

香港や韓国など海外からの参加も


香港・染樂工房の李家欣さんののれん「蓮の花の間で遊ぶ禅魚」

榊原米穀店にはハスの花と赤い魚ののれんが風に揺られていました。店の佇まいに藍色がマッチ。さらに店主ご夫婦の装いものれんの色使いに合っていて、素晴らしいハーモニー!赤が挿し色になっているところまで、完璧です。「薄い色が使われているのが珍しく、すごく素敵と感動しました」と嬉しそう。香港に住む作家・李家欣さんによる作品説明は「泥から出た蓮は汚れず、まるで浄土のようです。蓮の花の穏やかな雰囲気は人々を落ち着かせます。池で泳ぐ魚を見ると、魚の幸せも感じます」――アジアの風を感じます。こういう染めを通じた国際交流も魅力の一つです。


早稲田国際ビジネスカレッジの髙瀬あゆみさんによる捺染のれん「つながる」

ファミリーマート新宿中井駅前店には、早稲田国際ビジネスカレッジの学生・髙瀬あゆみさんによるのれん「つながる」が掛かっていました。ファミリーマートの青と緑を見事に再現。外観にとてもマッチしています。「ファミリーマートに行くことで、ハッピーなつながりが広がっていく」ことをイメージして制作したそうです。絡みあったり、結ばれたりしてつながるひもの間を、鮮やかな青と緑で染めています。全国津々浦々にあるファミリーマートの中でも一番素敵に飾られたお店に違いありません。


韓国の作家、吳哉庚(オ・ジェギョン)さんの草木染めのれん「ビタミン」

韓国の作家、吳哉庚(オ・ジェギョン)さん草木染めの黄色いのれんが掛かったのは、薬王堂薬局。作品名は「ビタミン」。商品の出し入れをするために出てきたご主人がのれんに足を止めた人々に「このハングル文字は『薬』という意味だそうです」と説明していました。「この模様はカプセル。薬局に掛かることを考えてくれたんですよね」と嬉しそうに話していました。元気をもらえるのれんです。


Coco.batikの石井和華子さんのろうけつ染めのれん「Spring Journey」

紀州梅干 味覚庵には梅と共に石井和華子さんによる鮮やかなのれん「Spring Journey」が飾られていました。強い生命力を持ち、タイではお守りのモチーフになるプラータピアンという魚と梅。説明文には「梅は体を整える最高の食材。皆さまの健やかな日々を願い、最強コンビを染めました」とあります。優しさとエネルギーを感じさせる一枚です。


冨岡ふみ子さんの筒描きのれん「咲いても枯れても」

区立林芙美子記念館には芙美子の名前にちなんだのか、芙蓉の花と種子。作家の冨岡ふみ子さんのメッセージが深いです。「花の命は短いけれど、芙蓉は枯れても“枯れ芙蓉”と呼ばれその姿もまた美しいと言われます。女性が容姿のみで判断されることは少なくなり『年をとるのも悪いことばかりではない』と思える今に感謝したいです」。夏の花・芙蓉が冬の林芙美子記念館を美しく飾る、ドラマチックなのれんです。


モダン紅型おかめ工房の山﨑真奈美さんの紅型のれん「さぁ、はじめましょう!」 PHOTO : TOMOYUKI HIGUCHI

BBミュージックアカデミー第一教室には、山﨑真奈美さんによる楽器のモダン紅型のれん「さぁ、はじめましょう!」。ギターやドラムなどの楽器には菊や梅、牡丹などの模様が入って華やかです。「子供の頃に習っていた音楽に思いを馳せて、その上達や成功を四君子や富貴花など縁起の良い文様に託しました」。音楽を学ぶ楽しさが存分に伝わってきます。

街や染色業の振興を願う作家の熱い想い

本来、お店の内容を知らせるのがのれんの役割ですが、「道のギャラリー」は道行く人々が染めの素晴らしさに出合う場でもあります。そしてプロからアマチュアまで、作家さんにとっては、多くの人に作品を見てもらえるチャンスです。中井の街のため、染色業振興を願って、プロの技を存分に発揮した力作が街を彩ることこそ、大きな魅力です。


染の里おちあいの井上英子さんの更紗・型染めのれん「更紗の旅〜インドへの憧れ〜」 PHOTO : TOMOYUKI HIGUCHI

EMクリーニング ハヤシには、インド更紗の柄をアレンジした型染めのれん「更紗の旅〜インドへの憧れ〜」が掛かっていました。モチーフは「生命の樹」だそうです。「天と地を繋ぐ意味を持っていたり、万物の根源的な生命を樹になぞらえていたり、豊穣や生産を象徴していたり。亡くなった人々が残してくれた豊かなものがこれからも存在し続け、豊穣をもたらしてくれることをイメージして染めました」と作家の井上英子さん。柄はオリジナルで、型紙18枚を彫って染めた力作。大きな花と実をつけた樹を、幸せを運ぶ鳥と力強さの象徴ライオンが囲む優しさあふれるのれんです。


永原リタbatik染め工房の三浦由美子さんのろうけつ染めのれん「優しく 懐かれ 見守られ」

生命力あふれる樹のモチーフは、ろばた焼 権八にも。三浦由美子さんろうけつ染めのれん「優しく 懐かれ 見守られ」には、地にどっしりと根を張っていそうな樹の幹が、繊細で優しい色で表現されています。隣には10年ほど前に飾り、購入したのれんも。染の小道で出合ったのれんを普段から飾っているお店もあります。


象榮さんの友禅のれん「洗象図」(左)と「The Twilight Zone Ⅱ」

西武新宿線中井駅の改札正面の居酒屋、四文屋のテラス席にどどーんと登場したのは、子どもたちが白い像を洗う様子を描いた友禅のれん「洗象図」です。作家の象榮さんはその名の通り、インドでは神聖な動物とされる象が大好きだそう。子どもたちに洗ってもらって気持ちよさそうな白い大きな象を、すごく細かな線で描き、染めました。迫力満点。幸運を招くようなパワーを感じます。洗象は、中国の明時代に好まれた仏教絵画のテーマで、目に見えることに惑わされず、清浄の道へ至る境地を表現。16人の子どもたちは阿羅漢(聖者)に見たてたそうです。

象榮さんは、新宿区染色協議会準会員で東京都工芸染色協同組合準組合員。「染のがっこう」の手挿ワークショップ運営の中心メンバーでもあります。「ほぼ中井に住む作家なので、地元に貢献できるのは、喜びです」と象榮さん。2日間のワークショップも想定以上の盛り上がりで準備から当日までずっと大忙しでした。「地元の人やいろいろな人と交われるのはとっても面白いです。力のある作品は、みんなを元気にすると思っています。のれんは街へのギフトのつもりで、120%ぐらい愛と狂気を込めました」。

かつて京都、金沢と並んで染色の三大産地として知られた東京の神田川・妙正寺川流域(落合・中井)が、この先もずっと染の街として続いていくように、みんなで盛り上げていきます。

染の小道実行委員会では一緒に会を運営してくださるメンバー、のれんを提供してくださる染色作家さんを随時募集しています。

ご興味がおありになる方はこちらへ。

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